経口薬~糖尿病治療薬の種類と作用~
スルホニル尿素(SU)薬
特徴
スルホニル尿素薬、略してSU(エス・ユー)薬は、すい臓からのインスリンの分泌を増やし血糖を下げる飲み薬です。すい臓のインスリンを作る働きがある程度残っている患者さんで効果があります。歴史の⻑い薬で、最近は少なめの量を他の薬と併用して使うことが多くなっています。
血糖を下げる仕組み
インスリンはすい臓のベータ細胞で作られています。スルホニル尿素(SU)薬は、この細胞に働いてインスリンの分泌を増やします。
注意が必要なこと
【低血糖】
患者さんによっては少量でも低血糖を起こすことがあります。低血糖が長く続くこともあります。また、食前や食事時間が遅れたときに低血糖を起こすことがあります。低血糖への対処法をよく知り、準備しておくことが大切です。肝障害、腎障害、高齢の患者さんでは低血糖が長く続きやすく注意を要します。
【体重増加】
体重が増加しやすいので、食事療法をきちんと行うことが大切です。
参考資料
- 日本糖尿病学会編・著. 糖尿病治療ガイド 2024, 文光堂, 2024
- 日本糖尿病学会編・著. 糖尿病専門医研修ガイドブック改訂第9版, 診断と治療社, 2023
速効型インスリン分泌薬(グリニド薬)
特徴
グリニド薬はすい臓からのインスリンの分泌を増やし血糖を下げる飲み薬です。すい臓のインスリンを作る働きがある程度残っている患者さんで効果があります。服用してから効果が早くあらわれるので、食後の高血糖の改善に適しています。
血糖を下げる仕組み
インスリンはすい臓のベータ細胞で作られています。グリニド薬は、この細胞に働いてインスリンの分泌を増やします。似た作用を示す薬としてスルホニル尿素(SU)薬がありますが、グリニド薬はスルホニル尿素(SU)薬よりも吸収が速いため効果が速く現れ、また短時間で効果がなくなります。このため食直前に服用することで、食後に一時的に血糖が高くなる食後高血糖を改善することができます。
注意が必要なこと
【低血糖】
とくに肝臓や腎臓の機能が衰えている人では注意が必要です。低血糖への対処法をよく知り、準備しておくことが大切です。食直前の服用を守り、服用から食事までの時間が空きすぎないように注意します。
参考資料
- 日本糖尿病学会編・著. 糖尿病治療ガイド 2024, 文光堂, 2024
- 日本糖尿病学会編・著. 糖尿病専門医研修ガイドブック改訂第9版, 診断と治療社, 2023
DPP-4阻害薬
特徴
DPP-4(ディー・ピー・ピー・フォー)阻害薬は食事をとったときのすい臓からのインスリンの分泌などを調整して血糖を下げる飲み薬です。ほかの薬と併用しなければ低血糖を起こす危険性が低いこと、体重を増やしにくいことも特徴です。日本では2009年から使われるようになった比較的新しい薬ですが、2型糖尿病の患者さんに最初に使われる薬の一つになっています。
血糖を下げる仕組み
DPP-4阻害薬は、インクレチンを分解する酵素であるDPP-4の働きを抑えることでインクレチンを長持ちさせて働きを強め、インスリンを増やし、グルカゴンを減らして血糖を下げます。
インクレチンが多く分泌されるのは食事をとった後であるため、DPP-4阻害薬の効果も食事のあとに強く現れ、食後の高血糖を改善する効果があります。
インクレチン
インクレチンは食事をとると小腸から分泌されるホルモンです。すい臓のベータ細胞を刺激してインスリン分泌を促したり、アルファ細胞に働いて血糖を上げるホルモンであるグルカゴンの分泌を少なくする働きがあります。これによって食事による血糖の上昇が抑えられます。
インクレチンにはGLP-1、GIPがあります。いずれもDPP-4という分解酵素により短時間で分解されます。

注意が必要なこと
【低血糖】
他の薬と併用しなければ低血糖は起こしにくい薬ですが、スルホニル尿素 (SU)薬と併用すると、低血糖を起こすことがあります。特に肝障害、腎障害の患者さんでは注意を要します。
参考資料
- 日本糖尿病学会編・著. 糖尿病治療ガイド 2024, 文光堂, 2024
- 日本糖尿病学会編・著. 糖尿病専門医研修ガイドブック改訂第9版, 診断と治療社, 2023
- 日本糖尿病学会編・著. 糖尿病治療の手引き 2023 (改訂版第58版増補, 南江堂, 2023)
ビグアナイド薬
特徴
血糖マネジメントを改善し、体重を増やしにくい飲み薬です。肥満の人によく使われますが、肥満のない人でも効果があります。ほかの薬と併用しなければ、低血糖を起こす危険性が低いことも特徴です。歴史の⻑い薬ですが、現在でも2型糖尿病の患者さんに最初に使われる薬の一つです。
血糖を下げる仕組み
肝臓では、乳酸から糖が作られています。これを糖新生と言います。ビグアナイド薬は糖新生を抑えることで血糖を下げます。他にも消化管からの糖の吸収を抑えたり、筋肉などでのインスリンの働きを強めることによっても血糖を下げます。
注意が必要なこと
【乳酸アシドーシス】
血液中の乳酸が増えすぎた状態で、吐き気、腹痛、脱水、低血圧などが起こり意識を失うこともあります。これを避けるために、肝臓、腎臓、心臓、肺などに障害のある人、脱水のある人、大量の飲酒をしている人などには、この薬は使わないことになっています。75歳以上の方が、この薬を新たに飲み始めることも勧められていません。ヨード造影剤を用いた検査では、乳酸アシドーシスを避けるために、緊急の場合を除いて、検査前から造影剤投与後48時間まではこの薬は飲まないようにします。
参考資料
日本糖尿病学会編・著. 糖尿病治療ガイド 2024, 文光堂, 2024
日本糖尿病学会編・著. 糖尿病専門医研修ガイドブック改訂第9版, 診断と治療社, 2023
チアゾリジン薬
特徴
チアゾリジン薬はインスリンの働きをよくすることで血糖を下げる飲み薬です。ほかの薬と併用しなければ低血糖を起こす危険性が低いことも特徴です。
血糖を下げる仕組み
2型糖尿病では筋肉や肝臓で、インスリンが働きにくくなっています。これをインスリン抵抗性と言います。チアゾリジン薬は、インスリン抵抗性を改善することでインスリンの働きをよくして、血糖を下げます。
注意が必要なこと
【浮腫・心不全】
体内に水分が貯まりすぎることによって起こります。心不全のある方は心臓の負担がふえるためこの薬は使いません。
【体重増加】
体重が増加しやすいので、食事療法をきちんと行うことが大切です。
参考資料
日本糖尿病学会編・著. 糖尿病治療ガイド 2024, 文光堂, 2024
日本糖尿病学会編・著. 糖尿病専門医研修ガイドブック改訂第9版, 診断と治療社, 2023
α-グルコシダーゼ阻害薬
特徴
α(アルファ)-グルコシダーゼ阻害薬は消化管からの糖の吸収を遅らせることで血糖を下げる飲み薬です。ほかの薬と併用しなければ低血糖を起こす危険性が低いこと、体重を増やしにくいことも特徴です。
血糖を下げる仕組み
食事に含まれるでんぷんなどの炭水化物は、そのままの状態では消化管から吸収できないため、唾液や消化管の中の酵素の働きで、ブドウ糖に分解されて吸収されます。α-グルコシダーゼは、この時に働く酵素の一つです。
α-グルコシダーゼ阻害薬は、この酵素の働きを抑えることで、ブドウ糖への分解を遅らせ、食後の血糖の上昇を抑えます。食事の直前に服用することで効果があらわれます。
注意が必要なこと
【消化管の副作用】
おなかの張り、おなら、下痢などが起こることがあります。高齢者や消化管の手術をした人では、腸閉そくが起こることがあります。
【低血糖】
他の薬と併用して低血糖が起きたとき、砂糖では低血糖を改善できないので(ブドウ糖に分解されないため吸収されない)、ブドウ糖を服用します。
【肝機能障害】
肝機能障害、黄疸があらわれることがあります。定期的な肝機能検査や観察を十分に行うことが必要になります。
参考資料
- 日本糖尿病学会編・著. 糖尿病治療ガイド 2024, 文光堂, 2024
- 日本糖尿病学会編・著. 糖尿病専門医研修ガイドブック改訂第9版, 診断と治療社, 2023
SGLT2阻害薬
特徴
SGLT2(エス・ジー・エル・ティー・ツー)阻害薬は尿に糖を出すことで血糖を下げる飲み薬です。服用で起きる体の変化として、体重の減少もあります。ほかの薬と併用しなければ低血糖を起こす危険性が低いことも特徴です。日本では2014年から使われるようになった新しい薬です。
血糖を下げる仕組み
血液中に含まれるブドウ糖は、腎臓の中の糸球体で血液から原尿(尿のもととなる液)の中に出た後、尿細管で取り込まれて血液にもどります。この結果、健康な人では排泄される尿の中に糖は出てきません。このブドウ糖の取り込みで働いているのがSGLT2というたんぱく質です。
SGLT2阻害薬は、SGLT2の働きを抑え、尿細管でブドウ糖が血液にもどらないようにしてブドウ糖を尿に排泄させます。この結果、血糖が下がります。糖とともに水分も排泄されるため、尿の量が増えます。
多くの糖尿病治療薬(α-グルコシダーゼ阻害薬以外)は、インスリンの分泌や作用を介して血糖を下げていますが、SGLT2阻害薬はインスリンと関係なく血糖を下げる薬です。

逆転の発想から生まれた薬
糖尿病の検査の一つに尿糖検査があります。これは、血液中の糖の濃度がある値を超えて高くなると尿細管で糖を取り込み切れなくなって、尿に糖が出てくることを応用した検査で、血糖が高いことの指標となります。糖尿病という病名も、尿に糖がでることに由来します。
SGLT-2阻害薬は、積極的に尿に糖を出すことで、血液中の糖を少なくするという、「逆転の発想」から生まれた薬です・SGLT-2阻害薬を使うと、普通なら尿に糖がでない程度の血糖値であっても糖が出るようになります。当然、尿検査は陽性になりますが、これをもって糖尿病の状態が悪くなっていることを示すわけではないのです。
注意が必要なこと
【尿路、性器の感染症】
膀胱炎、尿道・膣の感染症などが起こることがあります。とくに女性は注意が必要です。
【脱水症状】
体の中の水分が少なくなりすぎる、脱水を起こすことがあります。のどの渇き、だるさ、尿量の減少などの症状があらわれますが、症状を自覚しにくいこともあり、注意が必要です。服用中は適度な水分の補給をこころがけましょう。高齢者は脱水に気づきにくいため、この薬は勧められないことがあります。
参考資料
- 日本糖尿病学会編・著. 糖尿病治療ガイド 2024, 文光堂, 2024
- 日本糖尿病学会編・著. 糖尿病専門医研修ガイドブック改訂第9版, 診断と治療社, 2023
- 日本糖尿病学会編・著. 糖尿病治療の手引き 2023 (改訂版第58版増補, 南江堂, 2023)